Dream21.拒む愛妻
さてさてこれは一体どうしたことか。
あたし、ちょっと邪魔者みたい?
――そんな状況。
「帰りましょう? ミル」
「……嫌です。ここにいます」
「なぜ? ここは夢魔が作り出した偽りの世界ですよ?」
「……」
リュイの再三の説得もミルさんには届かなかった。
ここに到着してからどのくらい経ったのだろう。
夜が明けてすぐクライスに叩き起こされて、眠気眼のままリュイと共にミルさんの夢の中に送り込まれた。
今回は留守番組みに回ったセシルドなんか、ぬけぬけと半分イビキかいたままだったってのにさ!
ミルさんの夢の中は、この前入ったセシルドの夢の中と違って、なんというか……すっきりした空気にハッキリとした景色が広がっていて、やたらと感じる現実味が逆に不快。
それに夢魔はまったく姿を現さないし、意外とあっさり見つかったミルさんは帰りたくないとの一点張りで……。
ずっとリュイとミルさんは向かい合ったままこんな感じのやり取りを繰り返している。
その間ずっと私は二人から少し離れた場所で体育座り。
夫婦の会話には割って入れないから、黙って待ってるしかないわけなのだ。
「このままここに居たら、どうなるか分からないんだよ?」
「……構いません」
「……ミル……。どうしてだい? せめて訳を聞かせてくれないか?」
「……」
ミルさんに対するリュイは、いつもよりもさらに優しい感じがした。
離れていたって溢れんばかりの愛情が伝わってきて、ちょっと嫉妬したくなる。
それなのに、ミルさんはリュイを拒絶し続けた。
どうして?
嫌いになってしまったの?
いや違う。
ミルさんの顔を見れば分かる。
時おり覗かせるどうしようもなく切ない顔や、薄く頬を染めてリュイを見つめる瞳は、どう見たって恋する女性だ。
ではなぜ?
――そんなのは簡単。
「言えない事情があるんだよ」
ずっと遠巻きに二人の行方を見守っていたけれど、私はついに口を挟んでしまった。
二人とも一様に驚いた表情でこちらを注目する。
「ミルさんはリュイに言いたくても言えない事情があるんだよ。ホントは帰りたいに決まってんじゃん!」
自分でもお節介なセリフだと思った。
でも何かを言いかけては飲み込む、そんな仕草を何度も繰り返すミルさんを見ていたら私まで苦しくなって、口が勝手に言葉を紡いでいた。
ミルさんの大きな瞳がさらに大きく見開かれて、それからまたすぐに何かを飲み込んだまま伏せられた。
「ミル……キラの言う事は本当ですか?」
「……」
「ミル!」
珍しくリュイが声を荒げる。
負の感情をここまで露わにするところなんて初めて見た。
片手で額を押さえて大きく溜め息を吐くリュイに、ミルさんの肩がビクッと小さく震える。
そしてそのまま二人は沈黙してしまった。
再び傍観者と化した私は、二人の出す答えを待つしかなかった。
けれど、ミルさんの頑なな態度はちょっとやそっとでは崩せそうにない。
やはりここは諸悪の根源に登場願った方が得策だと思った。
だから――。
「リュイ! ミルさんをお願い。あたし夢魔を見つけてくる!」
言うや否や、当てもないまま走り出した。短剣を手に、思うがままに。
夢魔の作り出した世界だもん、きっと思っているよりも狭くて単純に違いない。
向こうに見える山々も、突き抜けるように青い空も、きっと幻だ。
だって私の短剣には私とリュイとミルさん以外何も映ってないから。
小さな女の形をしたの影以外。
しばらく走ったところで分かれ道に出くわした。
片方はいかにもな感じの暗~い道。もう片方は心も弾みそうな明るい道。
「え~? どっちだよ」
さすがにどちらを行くか迷う。こういう場合、どちらかは罠なのだろうがどちらも胡散臭い。
勢いよく飛び出したはいいが、こんな時優柔不断な自分が足を引っ張る。
「マジでどっち~? 面倒くさいなぁもう!」
短剣を手にしたまま右往左往していると、いきなり羽織っていたケープを何かに引かれた。
その拍子に首が絞められる。
「ぐえっ! な……なに?」
慌てて背後に目をやるが、別にそこには何もいなかい。
それなのに再びケープが引っ張られ、またもや首が圧迫される。
「何なのもう!」
無造作にケープの裾を掴んで力任せに手前に持ってくると、何やら謎の物体が前方に放り出されて行くのが見えた。