短剣と夜想曲41話 乙女心と馬鹿力【異世界転移ファンタジー小説】

Dream41.乙女と馬鹿力




「き、キラさん! 腰のところが光ってます!」
「うわわわ!」

 布の巾着をも透過とうかするほどの輝きに、私もアイラさんも目を開けていられない。

 何とかしてこの光の洪水を弱めようと巾着を自分の手で覆うようにしてみても、光が強すぎて皮膚さえも突き抜けてしまう。

「どうしちゃったんだろ、何これやだーッ!」

 自分の所有物ながら、本当に分からない短剣だ。

 なんでこんなものが元の世界で普通に売られてたのだろう。

 そんなことをふと考えていると。

 光量こうりょうが落ち着いてきたのか視力が戻ってきて、私もアイラさんもゆっくりと目を開けたところ。

 短剣から発せられていた光が一ヵ所に集約されて、そこに何かの映像が映っていた。

 次第に鮮明になっていく映像を、二人並んで見守る。

 すると……。

「うわーーっ! ちょっとやめて下さい! いやーーッ!」

 顔面を真っ赤に染めたアイラさんが突然絶叫する隣で、口を開けたまま微動びどうだにできない私。

 映像にはアイラさんが映っていた。

 たくさんの夢魔らしき人影に襲われている!

 けれども……。

 確かに映像の中のアイラさんはおびえているように見えた。

 見えたけれども……。

「みみみ見ないで! そんな目で私を見ないでぇ!」

 思わず横目でアイラさんの表情をうかがい見れば、あまりの羞恥しゅうちにもはや両手で顔面を覆っていたアイラさんが指の隙間から瞳を覗かせながら、もげそうなほど首を振る。

 いや、見るでしょ。

 ガンガンに見るよ……。

 だって……映像の中のアイラさんが夢魔を振り払う度に、夢魔の体が水飛沫みずしぶきのように粉々に粉砕ふんさいされていくんだもん……。

「アイラさんてもしかして……怪力……」
「忘れていたかったのにぃぃ……」

 決定的な言葉を口にしてしまった私を心底恨めしそうに見つめた後、アイラさんはがっくりと項垂うなだれるとその場にへたり込んでしまった。

「てことは、この破片はやっぱり夢魔! でも何でだろう? 魔具使いじゃないただの怪力の人が殴っても黒い珠になるのかなぁ」
「殴ってないわ。払っただけ!」
「いや、そこは殴ったって言っといた方が良くないですか? 払っただけで粉々にするとか怪力まっしぐらじゃん」
「うっ……」

 非力でいたい乙女心は分かるけど、現実的に考えればどっちの表現を使ってもたいして変わらないんだろうけど。

 そんなことよりも夢魔の珠!

 私も素早くその場にかがむと、両腕を広げて黒い欠片をかき集めた。

 ゾッとするような量の欠片が腕の中に集まっていくのを眺めながら、一体何人の夢魔に襲われたのだろうかと思案する。

 こんな大人数相手じゃ、さすがに自分だって勝ち目はないかもしれない。

 間違いなく今の時点でラルファール最強なのはアイラさんだろう。

 北の国に戻る間だけでも仲間になってくれたらめっちゃ楽できそう……。

 クライスたちに提案してみようかな……ひひひ。

 そう考えた途端、俄然がぜんやる気が出た私はアイラさんの瞳をしっかりとらえて宣言した。

「とにかくこの欠片全部持って、この空間から脱出しましょう!」
「どうやって?」

 えーっと。

「私がここにいることを仲間が気付いてくれたら何とかなりそうなんだけど……」
「キラさん、仲間がいるの?」
「はい。ヘンテコな仲間なんですけど全員魔具使いなんです」
「魔具使い! じゃあ、キラさんも?」
「そうみたいです」

 私の返答を聞くやいなや、珍しそうな物でも見るような顔をして「へぇー!」と目を見開くアイラさんにとって、私は初めて見る魔具使いなんだそう。

 北の国では賢者と魔術師の力が他の国よりも一回り二回り大きいらしくて、その反動からか滅多めったに北の国には魔具使いは現れないらしい。

「噂では、賢者と魔術師が北の国全体に夢魔避けの結界を張ってると言われてるの。確かにこれまで北の国で夢魔の悪戯いたずらは確認されてなかったけど、そのおかげだったのかしら?」

 うーんとうなりながら首を傾げるアイラさんだったが、私はその辺の事情はよく分からないから、適当に相槌あいずちを打ちながら欠片を集める手を動かしていく。

 すると。

「わぎゃーーっ!」
「きゃーっ、またーー?」

 再び巾着の布地を透過とうかするほどに短剣が光輝いた。

 と思うと、腕の中にあった黒い欠片が丸い形を取り戻していく。

 ひとつ、またひとつと。

 光が収まる頃には欠片はひとつとして残らず黒い珠へと変化し、そしてそれぞれがぱっと光を放つと、次の瞬間には黒い珠はあのサキュバスを閉じ込めた時と同じように透明なそれへと変化してしまった。

 その数ざっと二十粒。

 要するに、この空間には夢魔が二十人いたわけだ。

「……やめて下さい。そういう目で見るの」
「だって……」

 二十人を一撃で倒すところを見てしまったのだから仕方がない。

「アイラさんが強すぎるんです……」と言い終わるか終わらないか。

「……ん?」
「……あら?」
「……な、何の音?」

 どこからともなく響き渡る不穏な地響きのようなものが聞こえてきて、私は思わずアイラさんにしがみ付いた。

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