Dream45.野郎だらけの王宮で
すぐそこに、西の王宮が迫っていた。
王宮を取り囲むように城下が広がっていて、商店も多ければ住宅も多い、とても活気に満ち溢れた立派な王都だ。
けれどその中を、この国の王子たるクライスは、まさに見世物のごとき扱いで王城に文字通り連行されていた。
「おいっ! せめて縄は解けよ縄はっ」
「ダメですよ。解いたら逃げるでしょ、アンタは」
私たちにも聞こえるか聞こえないかくらいの小声でやり取りをする主従は今、クライスの愛馬に二人仲良く跨がっていた。
前にクライスが乗り、その後ろからクライスを包み込むようにして手綱を握っているのがセシルドなのだが、よくよく見ると、クライスとセシルドの胴回りは一本のロープで括られている。
しかも男の二人乗りという奇妙な馬上からでも、民衆から声を掛けられれば笑顔で反応しなければならない王子様は、その合間を縫って唯一自由の利く足で後方のセシルドの足をげしげし蹴っていた。
「この国の人って……あの絵面を変だとは思わないのかな……」
あんまりぴったり近付いて進むのもなんだか恥ずかしくて、クライスの白馬から少し距離を取って進むのは、リュイの操るセシルドの愛馬と、アイラさんの操る薄茶の毛並みが美しい南の賢者に借りた馬。
あの後、セシルドとの追いかけっこに負けたクライスは逃走防止の名目でセシルドとロープで身体を固定された挙げ句、アイラさんも馬に乗れると知ったセシルドによって強制的に乗馬のメンバーチェンジを余儀なくされた。
その結果、白馬にはクライスとセシルドが、セシルドが駆っていた黒毛の馬にはリュイが、そして賢者の馬にはアイラさんと私が乗ることになったのだ。
けど。
「なんでみんな可笑しいと思わないの?」
私はもうずーっと、おかしくておかしくてしょうがないのに!
壮健な青年二人がロープで体を繋いで仲良く一頭の馬に同乗してるだけでもおもしろいのに、片っぽはこの国の王子様で、沿道からの声援を一身に受け、心とはうらはらにとびっきりの笑顔を周囲に振り撒いている。
でもその後ろにはおっかない顔をしたセシルドがしっかりクライスを抱き込むような形で手綱を握ってるし、なんかもう王子様なのかお姫様なのか下手人なのか……。
「ぷ……ぷぷぷ!」
耐え切れずに吹き出した私の前に乗るのは、手綱を握るアイラさん。
「クライス王子、お城に帰るのが嫌なんだそうよ」
「え?」
「さっきね、聞いたの。セシルド君に追いかけられてる最中に。暑苦しくて、嫌だって」
「……? 暑苦しい?」
こんな森に囲まれた涼しい国なのに?
アイラさんの話に混乱していると、話はなおも続いていく。
「王子と言っても三番目だから、お兄さんたちに比べたら自由だったそうだけど、なんか……私やキラさんが一緒だと何とかかんとか?」
「いや、そこ重要!」
一番知りたかった部分を濁されると余計に気になるじゃん!
肝心のところをきちんと聞いてないなんてアイラさんもうっかりしてるな、などと心の底で溜め息を吐いていたら、いつの間にやら王宮にたどり着いていた。
王城の入口には衛兵の詰所と、王宮へと繋がる上下可動式の城柵があり、平常時でも柵は念のため下りている状態なのだそう。
先頭で姿を現したクライスを見て、すぐに衛兵たちが詰所から外へと出てくる。
けれど。
「クライス様、クライス様じゃないですかー。どうしたんです? 今日はセシルドと犬の散歩ごっこ?」
「ちげーよっ!」
私の想像を遥かに上回る衛兵たちの反応に、思わず馬から滑り落ちそうになる。
おかえりなさいませ、王子様。よくぞご無事で。とか言うんだろうなと予想していたのに、なんだ、犬の散歩ごっこって。
そんなことを思っていると。
「うわっ! 女子だ! 女子がいるぞ!」
「なに!」
「うわホントだ!」
それどころか自国の王子様を差し置いて、一目散に私とアイラさんの乗る馬の周りに集まった衛兵たちは、なぜかその目をキラキラさせながら「ようこそいらっしゃいました! 王の元までご案内致しましょう!」などと口々に話し掛けてくる。
「い、いや……クライスもセシルドもいるし、結構です! それにあんたらはここ離れたらまずいでしょ」
「大丈夫ですよ! ここを突破されてもこの城には賢者様も魔術師様もいますし、クライス様や兄上様方だってお強いんですから! 何とかしてくれますって」
「すげー国だなっ!」
衛兵の意味ッ!
思わずツッ込まずにはいられない衛兵たちの言葉に、私はもう何がなんだか分かりゃしないよ!
「前の方がクライス様の彼女で、後ろのちんちくりんがセシルドの彼女かなぁ?」
「なんか変な服着てるなぁ」
「はぁぁッ?」
しかも失礼かッ!
私の前でクスクス苦笑するアイラさんの振動を感じながら、衛兵たちの疑問に手を震わせる私。
誰がセシルドの彼女かっ!
誰が変な服のちんちくりんかっ!
怒りで頭の天辺から今にも蒸気を噴かんばかりの私にダメ押しするかのように、どこ吹く風のセシルドがボソッと燃料を投下した。
「ちょうどいいや、そのちんちくりん、ブレイブ様だぞ。名前は金魚」
「おお、ブレイブの!」
「金魚殿!」
「確かに顔が赤いですね!」
その瞬間。
私、ちょっと記憶が飛んだ。
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