Dream40.川で洗濯してたら女子を拾った2
「あの……あなたも……夢魔?」
ふいに声が掛けられた。
びっくりして振り返ると、ボートの中で眠っていたあの女の子がそこに立っていた。
「あっ! あなた……!」
そして思わず絶句する私に、女の子は少しだけ怪訝な顔をして首を傾げる。
「夢魔……じゃないみたいね。私、アイラって言います。気付いたらここにいて……」
「アイラさん! 実は私、川で洗濯してたんですけど、そしたらボートが流れてきたんです! その中であなたが眠ってて!」
「えっ……か、川で?」
大きな瞳をぱちくりさせながら私の話を聞いていたアイラさんが、訳も分からないと言ったように分かりやすく混乱している。
そりゃそうだ。
川で洗濯してる私もどうなのよ、と思うし、ましてや流れてきたボートで自分が寝ていただなんて言われても……。
「……いやだわ、私、寝ちゃった?」
いや心当たりあるんかい!
「私、北の国の者なんですけど、家族で魚を獲って売ってるんです。私がいつも漁に出てて……。その最中に寝てしまったのかしら」
「魚屋さん?」
「北の国はどうしても他の国に比べたら作物が育ちにくいので……。私の村には大きな湖があるの。山から流れてくる栄養たっぷりで綺麗な水がたくさんの魚を育むのよ」
「へー……。でもここ、南の国と西の国の国境ですよ?」
「ええっ? そんなに流されてきたってこと?」
顔のど真ん中にでっかく「信じられない」の六文字を貼り付けたアイラさんが一人でぶつぶつ言っている。
けれども。
「そういやさっき、夢魔がなんとかって言ってませんでした?」
さっき声を掛けられた時。
夢魔に間違えられなかった? わたし。
するとアイラさんは何かを思い出したようにはっとすると、ガシッと私の両肩に手を掛けた。
「そうなのよ! 私、さっきまでここで夢魔に襲われてたの! あなたは? 平気だったの?」
「私……は、来たばっか、だしっ」
「じゃあ、あれで全部だったのかしら? こんな変なところに来ちゃった挙げ句、夢魔の群れに襲われて……」
「む……れ?」
何かとても重要なことアイラさんが言ってる気がするのに、掴まれた両肩がどうにも痛くて話に集中できない。
「怖くて怖くて……反射的に殴ったらバラバラになってしまったの……」
「ええっ? そんなことある?」
思わず聞き返した私に、アイラさんはなぜかブワッと音がするほどに赤面した。
「向こうに……残骸があるわ……」
下を向いてもじもじするアイラさんが小さく指差す先を見やると、確かに一ヶ所だけゴマみたいなものが撒かれた感じの場所があることに気付く。
「ちょっと見て来て良いですか? あ、私、キラって言います! よろしく!」
「キラさん、あなたはどうしてここに?」
アイラさんの疑問はもっともだ。
けれど、私もそこは逆に聞きたい。
「アイラさんを助けようとしたら、アイラさんの身体から黒い変な触手みたいのが出てきて……それに巻かれて気付いたらここに……」
「黒い……触手?」
「こう、ばーーっと広がって、シュルシュルっと巻かれてすぽーん! みたいな」
「ちょっと分からないわ」
身振り手振りを交えて説明する私に、アイラさんは間髪入れずに答えた。
確かに、分かるわけないよね。
私だって分からないもん。
「ここよ」
アイラさんが立ち止まった場所には、黒い欠片が大量に散らばっていた。
ビー玉の割れてしまったような鋭利な欠片がわんさか落ちている。
「これ……」
「信じてもらえないかもしれないけど……、これ、夢魔だったの」
「夢魔!」
ってことは、これ全部夢魔の黒い珠?
驚き、その場に屈み込んで欠片を観察すると、部分部分に顔だの手だの足だのがそれぞれ見え隠れしている。
「黒い珠になってから割れたんですか?」
「いいえ? 夢魔をちょっと振り払ったら急にこの欠片になってしまったの。怖くて……夢中で……」
「いきなり欠片に……」
これはまた初めてのパターンだぞ。
これまでの夢魔は死に際? に黒いオーラを身体から発して、それに包まれるようにして珠へと変化していったはず。
それがどうしていきなり割れた珠に……。
腑に落ちなくて、とりあえず黒い欠片を一摘みした時だった。
「おわーーっ!」
腰に括り付けていた巾着から目映い光が溢れ出した。
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