✝ 残 ✝ 076話 ヴィーダの灯火(1)【恋愛ダークファンタジー小説】

✚残076話 ヴィーダの灯火(1)✚

 ねえ、神様。

 私はどうして生きているの?
 私はどうして生かされているの?

 そんなセリフを夜な夜な神の前で呟いていた日々があった。

 こんな世の中にあって、どうして人は生きているのだろう、どうして自分は生かされているのだろう。そう思って。

 エリーゼがいなくなったことによって空いてしまった大きな心の穴を、神に祈り、神に問うことでなんとか埋めようともがいていたのかもしれない。

 そうすれば、たとえ一時でも寂しさや悲しみを紛らわせることができたから。

 一向に答えのない一方的な問い掛け。

 それでも私は何かに取り憑かれたかのように、ただひたすら神の御許に跪き続けた。いつの日か、その“答え”に辿り着けると信じて……。

 がたんと身体が大きく揺さぶられたことに驚いて、固くつむっていた目をぱっと開いた。けれど視界に映る世界はただただ暗いだけでよく見えない。

「……あれ?」

 知らぬ間に寝入ってしまったようだった。重い目を何度かこすって脳の覚醒を待つ。

「……」

 ああ、そうだった。

 昨夜、ヴィーダ壊滅の一報を受けた後すぐに、エルフェリスはロイズハルトとルイと共に黒塗りの馬車に飛び乗って、ヴァンパイアの居城を後にしたのだった。

 初めのうちはヴィーダに着いたらああしようこうしようと色々思案しあんを巡らせていたが、やがて夜明けと共に会話も途切れ、次第に誰かの上げた寝息に連れるようにして深くて浅い眠りにいざなわれてしまったらしい。

 よく目をらせば向かいに座るロイズハルトとルイの姿がうっすらと見てとれた。

 二人ともいまだ眠りから覚めていないのだろうか。規則正しく上下する肩が、わずかな視界の中で動いている。

 とにかく今の時分を見極めようと車窓のカーテンを指先でまくれば、暗く闇に閉ざされた空間にかすかな光の差し込む様子が見て取れた。

 ここも日中移動用にヴァンパイアたちが作ったといわれる暗道とやらなのだろうか。

 ということは、今は日の出ている時間帯なのかと一人頷いて、光の入らないうちに再びカーテンで小さな窓を閉ざした。

 けれどエルフェリスの思いはいつまでも、カーテンの向こうに広がるであろう車窓に向けられる。

 一体あとどれくらいでヴィーダの地に着くのか見当も付かないが、やはり行動するにも夜を待たねばなるまい。

 自分一人ならばどうとでもなるが、ロイズハルトやルイに至ってはそういうわけにもいかないだろう。先を焦って、灰になられたりでもしたら取り返しがつかない。

 エルフェリスはカーテンに閉ざされた車窓に再び視線を走らせると、いつもより少しだけ長い溜め息を漏らした。

 ヴィーダは今、どうなっているのだろう。

 気持ちだけがどんどん前へとはやっていくのに、それをさえぎるようなこの道のりが少々恨めしい。

 けれどこの辺りで一度心を落ち着けた方が良さそうだと考えて、何度か息を大きく吸い込んだ。ヴィーダでは何が待ち受けているのか予想もできないのだから。

 そうこうしているうちに時は経ち、先に目を覚ましたルイによって車内の燭台しょくだいに明かりが灯された。

 見た目よりも広い車内を照らす柔らかな光は、戦場へと向かうエルフェリスたちを包み込むように暖かく揺れる。

 誰も言葉を発しようとはしなかった。誰もが黙ってうつむいたまま、各々の思いに浸っているようだった。

 けれど、そんな中でふとルイが口を開く。

「久しぶりですね……。こんな気持ちでどこかへ赴くのは……」

 そう言って微笑んだルイはどこか悲しげで、ふっと吹き抜ける風にも消えてしまいそうな儚さを感じさせた。

 なぜだかは分からない。

 分からないけれど、言いようのない雰囲気に居たたまれなくなってロイズハルトの方を横目で見やれば、彼もまたルイを一瞥いちべつしたのみですぐに視線をどこかにそららしてしまった。

 たいしたやり取りでもないのに、こんなにも一瞬にしてこの場の空気を変えてしまったルイの言葉の意味を、エルフェリスはまだ知るよしもなかった。

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