✚残094話 月と太陽の狭間で(3)✚
決意を胸にしたエルフェリスを撃ち抜くように見つめたまま対峙していたカイルは、そんなエルフェリスから少しだけ視線を逸らすと、もはや説得不可能であることを悟ったのかゆっくりと口角を釣り上げた。
こんな会話をしなければならないことは悲しくて仕方ない。
でももう自分もカイルも、綺麗事だけでは済まされない位置に立ってしまっているのだ。お互いに。
そう割り切り納得することで、自分の感情をある程度は閉じ込めることができるだろう。
……できるはずだ。
だから、ゆらりゆらりと迫り来るハンターの群れを見つめながら、エルフェリスは隣で今にも駆け出して行きそうな二人のヴァンパイアに向けて、そっと“あること”を告げた。
「なっ……ッ、エル、それは……ッ!」
「お願い。ここは私が……」
エルフェリスの提案に対して、二人は少し驚いた様子でそれぞれの瞳を見開いた。
ルイの瞳が揺れていた。
ロイズハルトの唇が、反論の意を唱える為に開かれるのも当然だと思った。
けれどエルフェリスはここを退く気など毛頭なくて。
ほんのわずか。交差したエルフェリスとルイの視線を、ロイズハルトの瞬きが遮った。
「……解った。ここはエルの言う通りにしてみよう」
そして漏れる溜め息が一つ。
ルイも時を同じくして納得してくれたのか、真摯な眼差しで何度か頷いてくれた。
「良いでしょう。やってごらんなさい」
「ありがと」
エルフェリスはそれを確認すると、その手に握りしめたワンドに願いを込めて、ゆっくりと円を描くように天高くかざした。
それを合図として、ロイズハルトとルイがエルフェリスを残して撤退を始める。
「ッ? エル……何を……!」
その行動を訝しげに思ったのか、すでに戦闘態勢に入っていたカイルの構えに一瞬の隙が生じた。エルフェリスはそれを見逃さない。
「光りよ、集え」
それはまるで風の囁き。
小さな小さな呟きは、ハンターたちの耳には届かない。けれどそんなエルフェリスの声に確かに反応するようにして、頭上高く掲げたワンドからはまばゆいばかりの光が溢れ出した。
「うわっ!」
夜の帳を引き剥がし、辺りを無限の光が覆っていく。
カイルをはじめとするハンターたちは、突然の光の洪水に視力を奪われて完全にうろたえていた。その隙を見計らって、エルフェリスもゆっくりと撤退する。
しかしながらこれはほんの一瞬のまやかし。子供騙しに過ぎない。
中にはもちろん用意のいいハンターもたくさんいて、過度な光を遮る加工を施したバイザーグラスを装備している者も見て取れた。
彼らはエルフェリスの放った威嚇の魔法にまったく動じることなく、むしろエルフェリスに向かって突進してくるほどの勇ましさを見せる。
「あーあ……やっぱダメか」
もちろんそんなこともあろうかと思っての行動だったわけではあったが、とはいえこうもあっさりと破られてしまっては、さすがのエルフェリスも少し肩を落としてしまいたくなっていた。
歴戦のハンター相手に対等に戦うなどという芸当は到底不可能だと思っていたし、経験からしてもまったく比較にもならないのは最初から解っていたものの、エルフェリスとてハイブリッドの襲撃の際にはハンターたちに混じって戦ったこともある。しかもその襲撃の中を何度も生き延びてきたのだ。
”ハンターに比べたら”弱いというだけで、”人間の”中では強いはずの自分の可能性に賭けてみたものの、やはり自分は甘いのか。
無意識に噛み締めた歯列が悲鳴のようにぎりっと音を上げて軋む。
しかしここであっさり両手を上げて降伏するようなエルフェリスではない。
「しつこいなぁ!」
自分への苛立ちと、ハンターたちの執着の深さにエルフェリスは少しだけむくれると、捨て台詞を一つ吐き捨てた。
それからエルフェリスは彼らに向けていた背をくるりと翻すと、振りかざしたワンドを前方に思いっきり突き出して、それから気合いの声を上げる。
「はっ!」
それと同時にワンドの先端からハンターたちを目掛け、何度も何度も衝撃波が発射されていく。
そしてそれは前へ前へと勢い付いていたハンターたちの身体を次から次へとなぎ倒していった。
「やった!」
先制攻撃はこちらに軍配が上がったようだ。
ハンターたちの足並みを、自分一人でここまで崩せるだなんてやればできるじゃないか。
などと、先ほどまでの落胆はどこへやら、心の中で飛び上がっていたところ。
「過信は危険ですよ」
「あとは任せておけ」
と左右から別々の声が響き渡った。
そしてその声の主たちは、光の呪縛から解き放たれつつあるハンターの中心を目掛けて力強く大地を蹴った。
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