十 残 十095話 月と太陽の狭間で(4)【恋愛ダークファンタジー小説】

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 光と闇の交差する中を、ふたつの影がを描く。

 そしてそのまま再びヴィーダはさらなる戦場へと姿を変えていくのだった。

 ハンターたちの勢いをぐという一仕事を終えたエルフェリスは、ワンドを両手で握り締めたままその様子をただただじっと見守っていた。少しばかり距離を置いた場所からじっと……。

 深淵しんえんの夜が明けて、空が白んで来る頃にはあらかた片が付いたのか、エルフェリスたちと対峙たいじするハンターの数は格段に減っていた。

 そこにはカイルと、ほんの数人。

 残りのハンターたちはみな、不自然な恰好かっこうさらしたまま大地に横たわっていた。

 けれど時おり上がるうめき声を聞けば、命のともしびを奪われた者のいないことを遠くからでも確認でき、エルフェリスは心の奥底でそっと安堵あんどの溜め息を吐く。

 ロイズハルトもルイも、こんな状況にもかかわらず誰一人殺さない。

 戦場では、いつ、どのような場面で命を奪われても文句は言えず、いつ、どのような場面で命を奪っても文句は言われないのに。

 無用に争うことの無意味さを、改めてこの身に感じた。

「さて、どうしましょうか? もう後がありませんよ?」

 あれだけ長い間戦い続けたにもかかわらず、余裕の笑みを零してルイはそう言うと、隣で腕組みをするロイズハルトに視線を移した。

 するとロイズハルトもそれに気付いて、ゆっくりと小首をかしげる。

 そしてそっと低い声で、けれども至極しごく穏やかにカイルに呼び掛けた。

「このまま剣を収めてくれれば、これ以上の長居はしない。手出しもしない。……いかがか?」

 誰から見ても、この状況の下ではそれが最良の策であることは明らかだった。

 あれだけの人数をもってしても、今かろうじて立っているハンターたちは極わずか。

 ロイズハルトとルイというハイブリッド――実際はシードであったが――を前に、ほとんどのハンターたちが十分な力を発揮することなくヴィーダの大地に沈んでいった。

 そのような中を残った者はそれぞれに傷を負ってはいたものの、誰も彼もが腕には自信のありそうな者ばかりであった。

 それでも、この状況ではもう手も足も出ないであろうことは、この戦いを傍観ぼうかんしていただけのエルフェリスにも容易に想像のできる。

 これ以上の抵抗は、無駄に命を削るだけ。

 ロイズハルトの提案を受け入れてくれと、それだけを祈った。

 しかし。それなのに。

 カイルはまるで他人事ひとごとのように不敵に笑っていた。

 鋭く冷めた瞳のままで。

 美しく弧を描く唇からはくすくすと声が漏れ始め、やがてそれはしんと静まり返った冷たい空気を震わせながら長い余韻よいんを残して消えていく。

 刹那せつな、再び訪れる静寂せいじゃく

 しかしそれを切り裂いたのはやはり、何かを振り払うかのように両手で顔を隠し、首を左右に振りながら笑うカイルの声だった。

「……退いたりするものか……。まだ負けと決まったわけじゃない……。それに……」

 そこで一旦言葉を切ったカイルはゆっくりと、実にゆっくりと空を仰ぎ見ると、息を呑むほどの美しい顔で笑った。

「ほら、もうすぐ夜明けだ。ヴァンプの身で果たして耐えられるのかな? ……形勢逆転だ」

 うつろな色を浮かべる瞳。身震いするほどの凄み。

 彼の放った言葉の意味を瞬時に理解したエルフェリスにし掛かるのは、決してこの場の重苦しい空気ばかりではなかった。

 夜明け。

 姿を隠す星々。

 紫色の空。

 駆け抜ける光。

 夜明け。

 そしてその後に姿を現すのは……。

 カイルたちに気を取られ過ぎて、時間の経過の確認をおろそかにしてしまった自分の愚かさを心底呪った。

 戦況を見守っていただけの自分がそれを忘れてどうする!

 自分のせいで彼らが灰と化してしまうかもしれないと慌てて頭上を見上げれば、闇に包まれた世界を横切るように微かな光がその触手を伸ばそうとしているところだった。

 今すぐ撤退を始めれば、あるいは間に合うかもしれないが、それにしてもぎりぎりであるとエルフェリスには思えた。

 彼らのまとう黒のマントがどれだけの日差しをさえぎってくれるのか、それにも寄るが兎にも角にもここは迷わず撤退すべきだと前に立つルイに目をやれば、彼はまたもや己の髪をもてあそびながら小さく笑っていた。

「ル……!」

 彼の名を呼ぼうと口を開きかけたところでそれは制される。

 ルイはエルフェリスに目配めくばせをしながらその綺麗な手をかざし、そしてもう一方の人差し指を唇に当て「しっ」とジェスチャーすると、優雅な物腰を崩すことなくハンターたちに視線を移した。

 そして風に舞う花びらのように一歩、また一歩とハンターたちに歩みを寄せる。

「それがどうしたと? 残念ですが、太陽が苦手、というのはまぎれもない事実です。でも、我々とてただ光が怖いとおびえながら生きてきたわけではありません。遥か昔、人間と我々ヴァンパイアは”昼夜”を問わず争いにふけた時代がありましたね。あなたもハンターの端くれならご存知でしょう?」

 月か、はたまた太陽かと見紛みまごう色の毛束をクルクルと指先に巻き付けるルイを、じっとカイルが見つめていた。

 だが、ルイの言葉にカイルがはっと目を見開く。

「どういうことだか……お分かりですね?」

 それを見逃さなかったルイは、満足気に目を細めた。

 鼓動が早まるのを感じた。

 彼の言葉に何かを感じ取ったのは、カイルだけじゃない。エルフェリスも同じ。

 けれどもそれは余りに常軌じょうきいっし過ぎていて、思考が思考を否定する。

 それなのに、目の前に立つ美貌の男はひどく魅惑的に微笑んで、決定的な一言をまるで愛を囁くかのように言ってみせた。

「私たちは、光の中でも生きるすべを見つけたのですよ」

 時が凍りつき、人間たちは恐慌きょうこうの中に突き落とされる。

 微笑むルイ。

 目の前が、真っ白に染まった。

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