十 残 十100話 カウントダウン(4)【恋愛ダークファンタジー小説】

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 † † † † †

「暇だねぇ……デューン」
「暇だなぁ……レイ」
「僕たちいつからこうしてるっけ?」
「……さぁ?」

 しんと静まり返った居城の中、誰も居ないロビーのソファにだらしなく沈む二つの影があった。

 思い思いの場所に腰掛けて、時おり言葉を交わしては長い沈黙を貫く。

 先ほどからそのようなことを何度も繰り返していた。

「俺たち今まで……どんな風に生きてきたんだろうなぁ……」

 この世に生まれ落ちてからというもの、気の遠くなるような年月を何の躊躇ためらいも疑問も持たないまま生きてきたはずなのに、まさかここまで空虚くうきょな一日を過ごす時が来ようとは夢にも思わなかった。

 戦いに明け暮れた日々も、ごくたまに訪れる平穏な日々も、こんな空っぽの心を抱えて過ごしたことなど一度も無かったように思う。

 そんな自分たちを取り巻く環境がガラリと変化を見せたのはそう、たった数か月前のことだ。

 一人の少女の存在が、久しく変化の無かった自分たちの日常をことごとく変えることになろうとは、正直誰一人として想像すらしていなかったはずだ。

「エルのやつ、ヴィーダで無事にやってんのかなぁ」

 抱え込んだ片膝の上に顎を乗せ、デューンヴァイスは心の奥底に溜まった憂鬱ゆううつの溜め息を深く長く吐き出した。

 ヴィーダ襲撃の一報があってからまだ数日しか経過していないというのに、もう随分と昔のことのように思えるのはなぜだろうか。

 あの娘の姿が見えないだけで、あの娘の声が聞こえないだけで、こんなにも心にぽっかりと穴が空いてしまうとは思わなかった。

 寄り添う女などいなくても何とも思わなかった自分が、よりにもよって人間の娘などにここまで心を奪われるとは。

 他でもない自分自身が一番驚いている。

 始めは興味本位で近付いただけだったのに……。泣いたり、笑ったり、勇ましかったり、もろかったり……。

「ふふ……」

 ほんの少し思い出すだけでも自然と笑みが零れてしまうのだから、相当重症だ。

「何笑ってんのデューン。キモイよ」

 横目で、さも怪しげな視線を投げかけてくるレイフィールの嫌味など、今夜のデューンヴァイスには少しもこたえなかった。

 ただ。あの娘に会いたいだけなのだと。

「せめてヴィーダの状況が分かれば良いんだけどなぁ……」

 エルフェリスが戦場と化した瓦礫がれきだらけの町で無事でいることが分かれば、少しは安心できるというものを。

 そんな心が言葉となって零れ落ちていく。

 あーあ、と力無く横を見やれば、きょとんとした眼差しで自分を見つめているレイフィールと目が合った。

「……何だよ、その目」

 レイフィールの本心が掴めなくて少々口を尖らせてそう言えば、彼はなおも不思議そうに首をかしげている。

 チッ。

 デューンヴァイスが心の中で舌打ちしたのと同時に、レイフィールは少しだけ肩をすぼめた。

「それはこっちのセリフだよ、デューン。エルのことが心配なら、あのリング使えば良いじゃん」
「リング?」
「通信用のリングあるでしょ? あれ、この前ルイがエル用に作らせてるとこ見たんだよねー。もう持ってるんじゃないかな?」
「は?」

 通信用のリング。

 リング……。

 気付けば、「何だそれっ」と叫んでいた。

 さすがルイと言うべきか何と言うべきか、女へのプレゼントとなると……仕事が早い。

「くっそールイめ! よりにもよって指輪を贈るとは! 俺の役目だったのにぃぃぃッ」

 女に指輪を贈る。

 それがどういう意味を持っているかくらいは、いくら女たらしと悪名高いルイでも分かっているはずだ。

 それとも手当たり次第に愛を囁きまくってきたせいで、そんな感覚も無くしてしまったのだろうか。

 兎にも角にも「くーやーしーいーっ」の一言に尽きる。

 ルイにとっては深い意味など無かったとしても、相手が自分の好きな女だと思えば痛恨の一撃だ。一生の不覚だ。

 頭を抱えて苦悶くもんするデューンヴァイスの姿はごく自然といえるだろう。

 それなのにそれを見つめるレイフィールの表情といったらそれはそれは冷めきっていた。

 ガーだのグオーだの奇声を発しているデューンヴァイスにさっさと見切りを付けたのか、レイフィールは無言で懐に手を伸ばすと、そこに忍ばせておいたリングを取り出した。

 銀の輪の中心で、淡い水色の石がきらりと輝いている。

 けれどそれをわざわざ確認するわけでもなく、レイフィールは目の前で無様にのた打ち回る大男に心底呆れた眼差しを向けると、手にしたリングをこれまた事務的にめた。

 そしてすべての物音を断ち切るかのように意識を集中させる。

 ゆっくりと閉ざされていく瞳の向こうに、一人の少女を思い浮かべながら。

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