十 残 十104話 声の導く先へ(3)【恋愛ダークファンタジー小説】

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 最後の一人を思いっきり地面に叩きつけて、ようやくルイは満足げに微笑んだ。

 そして額にまとわりついた髪の毛を鬱陶うっとうしそうに払いけると、ほっと息を吐く。

 自分に向かってきたハンターはあらかた片付けた。

 足元でまだうめいている者もいるが、どの者も死なない程度には痛めつけてある。

 どんなに強固な意志を持とうとも、しばらくすれば意識を失うなりするだろう。

 残るはただ一人、ロイズハルトが相手をするあの青年だ。

 元から格が違うとは思っていたが、なかなかどうしてしぶといようで、いまだに雌雄しゆうを決することができないでいる。

「やれやれ、本当に焼け焦げてしまいそうだ」

 常に視界に入る太陽の光をまわしそうに見上げると同時に、ルイにしては珍しく乱暴な口調でそう吐き捨てる。

 だが、決着が付くのは時間の問題と思われた。ハンターの男の動きにいっそうの陰りが見えたのだ。

 そこに畳み掛けるようなロイズハルトの攻撃。彼の魔法をもろに浴びるようでは、そうそう長くはもたないだろう。

 ようやく帰路きろにつく目処めどが立ったと胸を撫で下ろしたルイは、そこですぐさまむうとうなった。

 ハンターを殲滅せんめつした後にもう一仕事、レイフィールから依頼されていたことを思い出したのだ。

 ルイにしてみれば何てことはないただの雑用だったが、とにかく今は無性に喉の渇きをどうにかしたかった。体中が焼け付くようで、落ち着かない。

「……せめて見目麗みめうるわしい女性のハンターだったら良かったんですけどね」

 自らを納得させるように溜め息を吐くと、ルイは大地に伏せっているハンターの中から比較的若い男を探り出すと、無造作にその首元をつかみ、ずるずると林の中へと引きずっていった。

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「エルの事を思うならば、今ここで手を引け。もうお前以外誰も動けん」
「何を……っ! 僕はエルをお前たちの手から取り戻すと決めたんだ! お前らには渡さない!」

 先ほどから狙いの甘くなった男の切っ先を軽やかに避けながら、ロイズハルトは静かにさとした。

 しかし返ってくるのは、一瞬の決意が乗った渾身こんしんの一撃。だがそれすらもロイズハルトは羽のようにかわしてみせる。

 もうこの勝負の行方は火を見るより明らかなはずなのに、目の前の男はエルフェリスを取り戻すためだけに必死になって剣を繰り出していた。

 この男も自分も、想いをせるところは同じかと思うと笑えてくる。

 真逆の立場でありながら、同じ人間を想って戦っているのだから、おかしな巡り合わせだと、ふと思った。だからといって、相手に譲る気など微塵みじんもなかったが。

 自分はエルフェリスに、必ず連れて帰ると約束した。

 目の前の男には悪いが、その約束を違えるつもりはロイズハルトには毛頭もうとうない。

「そうか、ならばしばらく眠ってもらおう。心配するな、命は奪わん」

 ロイズハルトは簡潔にそれだけを伝えると、瞬きさえも許さぬ速さで相手の懐へと突っ込んで行った。そして素早く魔法の詠唱えいしょうを始める。

「……何をっ」

 あまりのスピードに目を見開く男と、にやりと笑うロイズハルトの視線が交差する。

 次の瞬間、男の身体はゆっくりと仰向けに傾いていた。

 口元は薄く開かれ、その眼は先ほどと同じように開かれてはいたが、恐らくはもう何も映していないだろう。

 弛緩しかんした身体は容赦ようしゃなく大地に叩き付けられ、弾みを伴って投げ出された腕からは彼の愛刀が放り出された。放物線を描いて、少し離れた地面に突き刺さる。

 ロイズハルトの完全なる勝利だった。

 宣言通り命は奪わなかったが、男が目覚める頃にはすでにロイズハルトらは己の城へと帰還しているだろう。そしてそうありたいものだと願った。

 そのためには早急さっきゅうに最後の仕上げに取り掛からねばならない。

 ロイズハルトは倒れているハンターたちに一瞥いちべつを加えると、すぐにそこにいるはずの美貌の男を探した。

 しかし男の姿は見当たらず、ロイズハルトはいぶかしげに眉をひそめる。

 先ほどまですぐそこでハンターを叩きのめしていたはずなのに、一体彼はどこへ行ったのだろう。

 散らばるハンターたちの身体を避けながら周囲を探れば、満足そうに喉を鳴らして木陰から姿を現すルイを見つけた。

 彼の様子から何となく事情を察したロイズハルトであったが、念のため彼に声を掛ける。

 するとルイは親指で口元を拭うと、指先に付いた赤い液体を舐めとる仕草を見せた。

 鉄の匂いが鼻先をかすめていく。

「いえ、少しハンターの血を頂いただけですよ。大丈夫、”噛み跡を残すようなこと”はしていませんから」
「……なら良いが……。急ごう。時間がない」 

 ロイズハルトは手短にそれだけを言うと、何を思ったかエルフェリスが消えた方角ではなく、反対のヴィーダの中心部へときびすを返した。

 その後ろ姿を目で追いながら、妖艶ようえんに微笑むルイであったが、わずかに顔をらすと、男の血でなければ最高だったんですけどね、とぼやいた。

 そしてすぐに自身もロイズハルトの後を追う。

 取り残されたのは、大地に沈むハンターたちのみ。

 その上を、静かに砂塵さじんが通り過ぎていった。

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