十 残 十093話 月と太陽の狭間で(2)【恋愛ダークファンタジー小説】

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「ひとまずの応急処置だ。これでしばらく痛みは忘れる。だが、無理をすればすぐに痛むだろうから極力俺たちから離れるな」
「ありがと……ごめんなさい……」

 ああ、ダメだ。

 こんな大事な時に限って、自分はいつもロイズハルトに迷惑を掛けてしまう。

 応急処置の甲斐あって、エルフェリスの足の違和感はひとまず消えていたが、エルフェリスはあまりの自身の役立たずっぷりを痛感して一人項垂うなだれた。

 いつもそうだ。いつもいつも……。

「ああっもう! 何でも良いから早くして下さい! 私もそろそろ限界ですよッ」

 だが、ダメ押しと言わんばかりに響いてきたルイの怒声に背中を押されて、エルフェリスは血相を変えると素早くさっと立ち上がった。

「ああもう、ああもう、ほんとにしつこいですね!」

 その間にも、ルイは彼らを狙って飛び掛かってくるハンターを相手取り、苛立ちを隠そうともせず殴る蹴るの連続攻撃を繰り出していた。

 しかしそれなのに、こんな時にまでまばゆいばかりの笑顔を振りく彼を目の当たりにすると、何やら体中をうすら寒いものが駆け抜けていくような感じがして、エルフェリスは一人身を震わせた。

 深く染み付いてしまった習性なんだろうけれど……怖い。

 だがここはルイの言う通り、少しずつされてきているルイ一人にこの場を任せるのはもはや限界と思えた。

 どんなにルイが強かろうとも、所詮しょせんは多勢に無勢。

 圧倒的に人数の多いハンター側の方が何事に関しても有利であるのはエルフェリスの目から見ても明らかだった。

「やはり……やるしかないな」

 それを察知したロイズハルトも小さな声でそう呟いていた。

 ……やるしかない。

 ワンドを握り締める手に自然と力が入った。

 ――解ってる。仕方のないことなのだと。

 ロイズハルトたちと共に城へ戻ると決めたからには目の前に立ちはだかるカイルと敵同士にならなければならないということも、ハンターたちが退かない場合はロイズハルトらの判断に従うのみだということも。

 解っている。理屈では解っていた。

 けれど、この心がなかなかそれを受け入れようとはしてくれない。

 エルフェリスは聖職者として、そして一人の人間として、同族と争うという行為にどうしても納得ができなかった。

 カイルたちハンターは、ロイズハルトやルイというヴァンパイアを前にして、エルフェリスの言葉など聞いてはくれない。

 けれどもエルフェリスは何としても争いを避けて通りたい想いでいっぱいだった。

 今この場で争い、いがみ合うことなどまったくの無意味で、急進派の……、いや、姿なき禁術使いの思うつぼなのだとエルフェリスは叫んだ。

 それなのに、その思いとは裏腹に、事態はいつも心望まぬ方向へと動いていく。

 これが現実なのかと思い知らされる。

 しかし今さら自分の力不足をなげいても仕方がない。

 ロイスハルトやルイというヴァンパイアのいる中で、必然的に制限される神聖魔法がどれほどの効力を発揮してくれるのかは未知数であったけれど、とにかくエルフェリスは手探りで腰にくくり付けたワンドを握り締めると、決意を秘めた眼差しをハンターたちに向けた。

 戦場での迷いは命取りになる。これ以上はロイズハルトたちに迷惑を掛けられない。

 それに傷付けるために戦うわけではなく、エルフェリスはただ牽制けんせい役に回るだけに徹底しようと決意した。

 そう考えれば、たとえ相手が昔馴染みのカイルだとしても立ち向かうことはできるだろう。

 争いを最低限に抑えるために、そしてロイズハルトたちと城に帰るために、エルフェリスはエルフェリスなりのやり方でハンターたちと戦ってみせると意気込んだ。

「残念だよ、エル。そこまでヴァンプに毒されてしまったとは……」

 群がるハンターたちをき分けて、エルフェリスたちの前に歩み出たカイルが声を張り上げた。

 エルフェリスの心に再びの揺さぶりを掛けようとしたのだろうが、もうエルフェリスの心を惑わすことなどできない。

「私も残念だよ、カイル。デストロイよりは話の分かる人だと思っていたのに」

 心の隙間に入り込んでエルフェリスを籠絡ろうらくしようとするカイルに負けじと、精いっぱいの笑顔を作ってエルフェリスは対抗した。

 カイルは大切な人だ。戦いたくはない。

 けれどロイズハルトやルイもまた、エルフェリスにとっては大切な人なのだ。

 どちらも傷付いて欲しくないから、エルフェリスはあえて戦うことを選択した。

 どちらも生かすために、今は戦う時なのである。

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